近所の傘
うちの近所で、わたしがとても気に入っているならわしがある。
バス停の置き傘である。
いつ、だれが始めたのか、私には分からない。
私が小さい頃はなかったので、さほど昔ではないが、もう長いこと、当然のように続いている。
私が住んでいる住宅街は、最寄の鉄道からバスに乗る必要がある。
バスは終点のバス停で引き返して、駅に戻る。
その終点のバス停に、いつからともなく、置き傘が置かれるようになった。
最初はそれほどの本数ではなかったが、
使われなくなったビニール傘、デザインの古い傘、少し古びた傘、
そんな傘が、傘たてに並び、自由に使えるようにおいてある。
たいていの家は、バス停から数分は歩かなくてはならない。
都内が便利になり、オフィスから、最寄り駅まで、雨でも濡れることなくいけるようになっても、
バス停から家までは、たいていの人がぬれてしまうことになる。
それが、ウチの近所のバス停は、この置き傘のおかげで、
傘を忘れた人でも、濡れることなく、帰ることができる。
そして、この置き傘の良いところは、
傘がすぐになくなったり、数が減ってしまうということがないこと。
みんな、次の人のことを思って、返しにきたり(私も、晴れた日に返しにきている)、
自分には不要な傘を置きに着たりしている。
こんな、目に見目ぬ人、まったく面識もない人、そんな人同士の「助け合い」が、
心を暖かくしてくれる気がする。
保険も、そんな助け合いの精神から生まれた仕組みだ。
自分が、保険というものが好きな理由がなんとなく分かったような感じがした。